ネギのメモ帳

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スペクトラム・アナライザー「Voxengo SPAN」がすごい理由


上画像はフリーのVSTスペクトラム・アナライザー,
Voxengo SPANによるものである.
このソフトが非常に多機能で便利だったので,
この記事ではその機能のいくつかを紹介する.
VSTでは無いが多機能スペアナとしては
Wave Spectraが有名である.
しかしWave Spectraが精密測定用だとするなら
SPANはむしろ音楽的なスペアナである.
そのあたりに特に着目していきたい.


セッティング例

まずは画像に表示されているスペクトルを説明する.
緑のスペクトルがMid成分, 黄色がSide成分である*1.
それぞれの色ごとに2つのスペクトルが見えるが
(低域のあたりに注目するとわかりやすい),
濃い方がリアルタイム値, 少し薄い方が長時間平均値である.
この表示を得るには, RoutingからMid-Side Stereoを選んだ後,


EDITでGroupのMID, SIDEともに以下の画像のようにする.


なおスペクトルを重ねる順番としては
Sideが手前に来るようにしたほうが見やすいと思う.

Mid/Side スペクトル

通常のスペクトラム・アナライザ―はLchとRchを
それぞれフーリエ変換して周波数表示するが,
SPANではMid・Sideそれぞれの
周波数成分を表示することができる.
これができるソフトをあまり見たことがない
(探し方が足りないだけで色々と存在するのかもしれないが…).


通常のLRスペクトルであれば(そして現代の通常の音楽であれば)
どちらのchを見ても同じような情報しか見えず,
片chだけ見ていても得ている情報はあまり変わらない.
それはつまりMid成分だけ見ているのと同じと言える.
一方Side成分のスペクトルは通常Mid成分と大きく異なる.
つまりSideのスペクトルが持つ意味を見出せば
今まで見ていたのより多くの情報を引き出せることが期待できる.


その意味であるが, 各周波数毎に,
MidスペクトルとSideスペクトルの差が
位相のズレを表していると考えられる*2.
すなわちSide成分がゼロなら位相が完全に揃ってセンターに定位.
MidとSideが同程度なら90度のズレで無相関.
Midがゼロなら完全に逆相, など.


例えば通常の楽曲であれば低域(100Hz以下くらい)をセンターに定位させるが,
記事トップの画像ではその様子がはっきりと見て取れる.
また, ギターを2本録って左右に振ったりすると
スペクトル的にはほぼ無相関になる.

+4.5dB/oct

SPANのスペクトルには実はデフォルトで補正が掛かっている.
EDIT内のSLOPEという設定がそれで, 1000Hzを基準点として
そこから1オクターブ上がる毎に4.5dB,
実測値よりも大きく表示するようになっている.
この値が選択された理由を探し出すことはできなかったのだが,
この傾斜を適用するとスペクトルは
どういうわけか実に音楽的に見える.
すなわち, 低域から高域まで
きちんとバランスが取れていればまっ平らになるし,
低域や高域, あるいは特定のパートが突出していると
ちゃんとそういうピークになる.


これは長時間平均を取ってやるとさらにはっきりわかる
(スペクトルのAVGというタイプがそれ).


ちなみにこの記事のスペクトル画像は全て
Dream Theater - a dramatic turn of events から適宜キャプチャーした.

まとめ

という感じで, 以上一部機能を紹介したが,
Sideスペクトルは位相管理に使えるという意味では
まだまだ活用の余地が有るように思われる.

*1:なお色は16色程度の中から任意に選べる.

*2: (L,R)空間から(M,S)空間への変換はただの可逆な線形変換だし, フーリエ変換も直交変換であるから, おそらく各周波数成分ごとの話に帰着させてよいはず. このとき窓関数の非線形効果は無視するものとする.