ネギのメモ帳

Twitterに書ききれないことをたまに書いたりするかもしれないスペース

主にVoxengoのVSTが面白いという話

自分のミックスの基本的方針は今までのアニメコラボ記事に
書き散らしてきた内容から特に大きな変化もないのであるが,
こまごまとした実験や挑戦は一応していて
(そんなに色々ミックスしてるわけでもないのだが)
この記事はここ1年くらいのそのまとめである.


SPANのマスタリング用設定

以前にVoxengo SPANの設定を紹介した.
あれは瞬間のピークやノイズを見つけたりカットオフ周波数を見たり
特定の楽器やメロディを追うのには向いているが,
長時間的な傾向を見るには向いていない.
また低域の再現性がやや甘い*1.
それで最近は別の設定をよく用いている.
といってもほぼプリセット"Stereo Mastering"の流用である.
それをMSスペクトルで用いたいという発想だ.


以前に紹介した設定との主な違いとしては,

  • Block Sizeが倍の8192 (=周波数解像度が倍=時間解像度半減)
  • OverLapが50%から75%に (時間解像度の補強)
  • AVG Timeが6秒 (RT Avgが中期平均になる)
  • Smoothingが1oct (大まかな周波数傾向を見る)

などである.
レンジは好みもあるが, 上はそんなに要らないだろうというのと
低域の変なノイズとかを検出するために左下広めに取っている.
塗りつぶしてないのは単に好みの問題である.

納品の音量とK-20

アニメソングコラボではマスタリング前の質的な納品基準として
ピーク上限-6dBFSが一応設けられている.
あまり詳しくないが音響の世界ではよくある基準値のようである.


今まではクリッパーにゆるくリダクションさせつつ
アウトで帳尻を合わせていたのだが,
試しにK-20を基準に作ったらこれが見事にピーク-6dBに収まるのである.
ちなみにK-nとは, フルスケール・サイン波をn dBに測る
積分時間が600msのRMS値であり*2,
n = 12,14,20 の3つの規格がある.
Bob KatzのK-systemなどと呼ばれているものであるが
詳細は省略! Voxengo SPANとかで測れる.


K-20が0dBになるようにミックスした場合, +4.5dB/octの傾斜をかけて測った
スペクトルの中・長時間平均は-45±3 dB程度の直線になる(ことが多いようだ).


ミックスの初期段階で音量のバランスを取る際には
まずキックとベースとを合わせるのだが,
前述の理由によりこの時点で
200Hz以下のスペクトルが-45dB程度になるようにするとよい.
特に100Hz以下にはこれ以外の楽器は通常居ないので,
これでその音域の音量はほぼ確定である
(あと居るのはフロアタムや爆発音SEくらいか).

Voxengo Stereo Touchとか

1本のモノラル音源からステレオ感を出すために,
左右に振ってわずかにズラすなんて手法はよく知られているが,
その感じでMid-Sideに振ってSideをズラすという手法もあるそうな.


M=SならL(もしくはR)全振りと同じことなので, ディレイさせても
どっちかに偏って聞こえるんじゃないかと頭では思うのだが,
やってみると意外にわからなくて単に空気感が広がるのである.
いや, 実際0.1ms (100μs!)くらいのディレイであれば
低域が片方に寄るので違和感が出るのだが*3,
1msもズラすと左右の偏りは全然わからないのである.


Voxengo Sound DelayというフリーのVST
ディレイタイムを精密に調整することができるので,
あれこれ実験するのに向いている.
その際, Stereo ChannelというフリーVSTを前段に挟むと
LR・MSのバランスを手軽にコントロールできてオススメである.
今回の話とは関係ないがVUメーターとしても優秀なのだそうである.


しかし前述のSideディレイによるステレオ感を得るためなら
もっと便利なフリーVSTがあって, それがVoxengo Stereo Touchである.
これはインプットのMid成分はバイパスし(但しマスターボリュームは通る),
インプットのSide成分をバッサリと捨て, Midのコピーにエフェクトを掛けて
Sideとして吐き出すということをしているようである.
エフェクトとしてはディレイやLPF・HPFなどが付いている.
プリセットもいくつかある.


そのような作りなのでチャンネルにインサートする分には良いが,
複数の楽器に掛けようと思うとセンドで使いたい.
するとエフェクト自身が出すMid成分が邪魔である.
残念ながらStereo Touch自身にMidをミュートする機能はないので,
エフェクトチャンネルの後段にVoxengo MSEDなどを刺して
Midをミュートするとよい.


という, Voxengo推しすぎな記事.

*1:フーリエ変換において時間と周波数との解像度はトレードオフの関係である.

*2:一般的なVUメーターでは300ms.

*3:MSのディレイはLとRとに互い違いのコムフィルターを生じる.